『ロストロポーヴィチ 人生の祭典』

ロストロポーヴィチのことは、彼が亡くなった時のニュースで知った。その後、小澤征爾と『ドン・キホーテ』の初演に取り組むNHKのドキュメンタリー番組を見て、ああ惜しい人を亡くしたんだなという感じに。そして、カストロ議長の映画を見たときに映画のチラシを見て、監督が『太陽』のソクーロフとあれば見ないわけには行きますまいということで見てきたのが大分前になる。
http://www.sokurov.jp/
予備知識ゼロだったんだけど、彼がどういう人物なのか、そして妻がどういう人物なのかということが伝わってくる映画だった。
最初はぼーっと見てたんだけども、インタビュー冒頭の言葉からぐいぐい引き込まれていった。曰く、「世界には2つの個性がある。演奏者と作曲家です。」とのことで、なるほどなぁと。その他親交のあったショスタコーヴィチプロコフィエフについても語っていたり、音楽に対する考え方を披露していたり、純粋に音楽的な面から見ても面白かった。それ以上に見所は沢山だったから感想に困るんだけども、まあ一応メモってことで。ネタバレ含む。
肩書きに関係なく全ての人に等しく接する、言葉にするとたやすいけど、それができる数少ない人なんだなという印象。ソルジェニーツィンソ連当局から嫌がらせを受けた時、それに対して抗議をしたことで冷遇されるんだけども、もし彼がノーベル賞作家とはいえ大したことのない人だったら抗議はしなかったかも。なんて意味のない仮定か。ショスタコーヴィチが当局から批判された時も本心では助けたかったんだろうな。
ソ連を出国してからは世界中で演奏活動を行っていて、日本でもよくコンサートを行っていたらしく、一度も見れなかったのが本当に悔やまれてならない。映画の中での姿を見ると、リベルタンゴに合わせて踊ったり、これから10年でも20年でも生き続けるような元気っぷりだったのに。他方で、ドキュメンタリーとして映像を残すように監督に依頼したり、そのウィーンでのコンサートを最後の演奏と決めていたり、死期を悟っていたのかなとも思える。金婚式の場面では同じテーブルに同時期になくなったエリツィンも座ってて、感傷的な気分になった。

原題:『ELEGY OF LIFE Rostropovih. Vishnevskaya.』。

その通りで、ロストロポーヴィチ一人ではなく、妻・ヴィシネフスカヤにも焦点を合わせた内容だった。冒頭の金婚式の場面で、ただ偉大な夫と連れ添っただけ…にしちゃやらた目つきが鋭い・・・とか思ってたら、夫に優るとも劣らない偉大な人物だったんで旦那さんとあわせて打ちのめされた感倍増。失礼なこと考えてごめんなさい。軽く経歴をまとめるとこうか。

レニングラード包囲戦を生き抜き、音楽の教育をほとんど受けずにボリショイ劇場のプリマに登り詰め、ソルジェニーツィンをかくまって冷遇されると祖国に未練を残す夫のケツを叩いて国外へ。ロシア国籍を剥奪されるんだけども、モナコ公国のパスポートで世界を飛び回り、国籍回復以降は人権擁護や福祉の活動に精を出すかたわら、モスクワに音楽学校を創設して後進の指導に当たる。。。

マリア・トラップ(次女)もびっくりのスーパーウーマン。いや多分知らないだけで凄い人ってもっといるんだろうけどさ。この夫妻のように人間の素晴らしいところをかき集めたような人たちはどうやったら生まれてくるんだろうかね。もしくは生まれざるをえない環境があってこうなったのかもしれないけど。分からないな。